「生活改善方式」での香典の書き方など

葬儀の慣習は地域によって様々です。別の地域から移り住んだ方は、その違いに戸惑うこともあるでしょう。例えば一部の地域では「生活改善方式」の葬儀が執り行われています。
「○○市生活改善推進協議会の申し合わせにより」などの記載がある案内状が届き、困惑したなんて方もいらっしゃいます。「生活改善方式」では香典の額や書き方が、一般的な葬儀とは異なります。この記事では「生活改善方式」での葬儀のマナーを説明していきます。
そもそも生活改善方式とは?
「生活改善方式」とは、主に佐久市、小諸市、南北佐久地域(軽井沢を除く)などで行われている、冠婚葬祭の負担を減らすための申し合わせの運動のことです。返礼品もなく、地域により様々な呼び方もあり専用の金封も販売などもされているようです。
「結婚式はできるだけ質素に行いましょう」
「葬式はできるだけ簡素にしましょう」
「香典のお返しは辞退しましょう」
このような申し合わせが、地域住民の間で交わされています。
結婚、葬式、お見舞い、お祝い。冠婚葬祭にはお金がかかります。冠婚葬祭にかかる出費が、それなりの負担になるご家庭も多いでしょう。
戦後の貧しい時代、冠婚葬祭にかかる費用は、今よりさらに大きい負担でした。葬儀に参列して香典を包む。そんな生活に溶け込んだ行為が、大変な負担だったのです。生活が豊かになった現代ですら負担になるのですから、その負担の大きさは想像に難しくないでしょう。「生活改善方式」はそんな負担を軽減するために作られました。「生活改善方式」は当時の人々にとって大きな助けになっていたと思います。
現在では「生活改善方式」の申し合わせの慣習が残っている地域は一部のみとなったものの、それでも現在を生きる人々の負担も軽減してくれています。
生活改善方式の成り立ち
地域住民との付き合いにはお金がかかる。もっと余裕を持ってノビノビお付き合いしたい。戦後の貧しい時代、そんな生活環境を誰もが望んでいました。
しかし冠婚葬祭には、古い慣習や伝統が強く残っています。個人間でその慣習を変えるのは困難です。
そうした中、地域の自治体の主導で行われた運動がありました。その運動が「古くて新しい生活改善運動(新生活運動)」です。この運動の目的は「地域住民同士お互いに申し合わせて、冠婚葬祭時の費用や手間を減らすこと」です。
その目的を叶えるため「古くて新しい生活改善運動(新生活運動)」には、以下の3つの運動が主軸としてあります。
- 香典返し辞退運動の推進
- 花輪代方式の推進
- 結婚を祝う会方式の推進
「古くて新しい生活改善運動(新生活運動)」は当時の人々にとって大きな助けになっていたと思います。
そんな背景から誕生した「古くて新しい生活改善運動(新生活運動)」も、経済が回復するにつれ姿を消していきました。現在では一部の地域でその慣習が残っているのみとなっています。
慣習が残っている地域でも、当時の「生活改善の申し合わせ」とまったく同じ慣習が残っている地域は多くありません。それぞれの地域で独自の残り方をしています。
群馬県や栃木県足利市では「新生活」と呼ばれ、「古くて新しい生活改善運動(新生活運動)」の慣習が残っています。
生活改善方式の申し合わせの現状
長野県の佐久市、小諸市、南北佐久地域(軽井沢を除く)では、「生活改善方式の申し合わせ」と呼ばれています。「生活改善方式の申し合わせ」に取り組んでいることを、自治体が広報している地域もあります。申し合わせ事項の詳細な内容が、自治体のホームページで確認できます。
長野県の佐久市、小諸市、南北佐久地域(軽井沢を除く)の葬儀では、生活改善方式の葬儀が執り行われる場合が多くあります。生活改善方式の葬儀かどうかは、案内状や式場にその旨が表示されていますので、よく確認しましょう。「○○市生活改善推進協議会の申し合わせにより」などの記載があります。
生活改善方式の葬儀の会葬御礼状が届いたら、その地域の行政のホームページを確認しましょう。生活改善の申し合わせ事項が掲載されているので、その申し合わせに則り葬儀に参列しましょう。
ちなみに佐久地方での「生活改善方式の申し合わせ」は、以下の通りです。
- 香典は1,000円以内とする
- 香典返しはしない(とされていますが500円程度の返礼品がある場合が多いようです)
- 葬儀の際のお見舞金はやめる
- 花輪・生花・供物等は自粛する
- 灰寄せは、近親者を中心にして簡素に行う
- 参列者に昼食を出さない
通常の香典と古くて新しい生活改善運動(新生活運動)で包む金額の違い
生活改善運動・新生活運動」は通常の香典と比べると少額で、包む金額の目安は約1,000円〜約5,000円です。ただし、地域によって金額に違いがあるため、事前に調べてから包むことをおすすめします。通常の香典と同様に新札を包むことは避けましょう。
通常の香典の場合
年代が上がるごとに香典の金額も増える傾向があります。なお、香典は新札ではなく使い古したお札が適しています。新札を使用すると、亡くなることを予測していたという印象を与える可能性があります。新札しかない場合は、折り目をつけてから包むとよいでしょう。また、4や9など不幸を連想させる金額も避けましょう。
自身が20代以上の場合(故人との関係)
- 義父、義母:約3万円~約10万円
- 義祖父、義祖母 :約1万円~約3万円
- 義兄、義弟、義姉、義妹 :約3万円~約5万円
- おじ、おば: 約1万円~約3万円
- その他親戚 :約5,000円~約1万円
自身が30代以上の場合(故人との関係)
- 義父、義母:約5万円~約10万円
- 義祖父、義祖母:約1万円~約3万円
- 義兄、義弟、義姉、義妹:約5万円
- おじ、おば:約2万円~約3万円
- その他親戚:約5,000円~約1万円
自身が40代以上の場合(故人との関係)
- 義父、義母:約5万円~約10万円
- 義祖父、義祖母 :約3万円~約5万円
- 義兄、義弟、義姉、義妹:約5万円
- おじ、おば:約2万円~約3万円
- その他親戚 :約1万円~約2万円
古くて新しい生活改善運動(新生活運動)の香典の包み方
香典袋の表書きは、宗教や宗派によって異なります。例えば、仏教の葬儀は「御霊前」や「御香典」、浄土真宗の場合は「御仏前」、神式は「御玉串料」、キリスト教は「御花料」などです。
新生活の場合は、表書きで新生活であることを伝えます。表記する箇所は表書きの左上です。書き方に指定はありませんが、新生活であることとお返しを辞退することが分かるような表記にします。なお、表書きは薄墨の筆ペンを用いて書きましょう。
古くて新しい生活改善運動(新生活運動)の香典袋の選び方
新生活用の香典も、通常の香典と同様に香典袋を準備する必要があります。通常の香典袋は、仏具店や文房具店、コンビニエンスストアなどさまざまな場所で購入することができます。
一方で、新生活用の香典袋はあまり店頭で見かけません。新生活の風習がある地域には取り扱いがあるので、適切な香典袋を使用しましょう。

生活改善方式の葬儀での香典の扱いは?
「生活改善方式の申し合わせ」の慣習がある地域では、香典を1,000円以内とする場合が多いです。また返礼品は渡さないとされています。
返礼品に関しては、時代の流れとともに変化があったようです。申し合わせ上は「返礼品は渡さない」とされていても、現在ではお茶やハンカチなど、500円程度の返礼品を渡すようです。この返礼品は香典返しとしてではなく、会葬御礼として参列者へ当日渡されます。
「生活改善方式の申し合わせ」の慣習がない地域からの参列者は、必ずしもこの慣習に則る必要はありません。元々は地域住民間での申し合わせだったので、別地域の住民には関係がなかったのです。
生活改善方式の葬儀には受付が2つ
そのため生活改善方式の葬儀では、受付が2つあります。「生活改善方式」と書かれた窓口と、「一般会葬者」と書かれた窓口です。生活改善方式に則り、1,000円程度の香典を用意したなら、「生活改善方式」の窓口で受付を済ませましょう。「生活改善方式」に則り香典を用意する場合でも、香典袋は通常の葬儀で使うような無地の香典袋で構いません。
また無地の香典袋は、基本的にどの宗教でも使えます。キリスト教式や神式の葬儀、相手の宗教が分からない場合にも使えます。
生活改善方式の香典返しはどうする?
少額の香典には、香典返しの必要がないとされています。転じて少額の香典には、香典返しを辞退するという意味も含まれます。それでも遺族の方が対応に困らないように、香典返しを辞退する旨は記載しておきましょう。香典袋の表書きの左端には、香典返しを辞退する旨を記しておくと良いでしょう。
連名で香典を出したり、会社名義で香典を出す場合もあるかと思います。連名や会社名義で出された香典には、一般的な葬儀であっても、香典返しの必要はないとされています。「生活改善方式」の葬儀でもとうぜん香典返しはありませんが、この場合も香典返しを辞退する旨を記しておきましょう。
花輪・生花・供物に関しては、自粛する申し合わせがあるのがほとんどなので、送る必要はないでしょう。
また「生活改善方式」を利用する参列者は、故人様やご遺族とそれほど親密でない方が多いようです。故人様やご遺族と親密だった方は、「生活改善方式」で香典を用意するかどうかよく考えましょう。
長野県佐久地方では、故人様の近しい親戚の方を灰よせ(会食)に招く慣習があります。招かれた参列者は、香典を10,000円包むのが通例となっています。
別地域からの参列者は「生活改善方式の申し合わせ」に則る必要はない
「生活改善方式の申し合わせ」の慣習がない地域の方が、生活改善方式の葬儀に参列する場合もあるでしょう。先にも述べたように、この場合は必ずしも生活改善方式に則る必要はありません。「一般会葬者」と書かれた窓口で受付を済ませましょう。
それでは別地域の方から、一般的な相場の香典をいただいたご遺族はどうしたら良いでしょう。
香典返しを送らないのも決して間違いではありません。そもそも香典には、相互扶助の意味合いがあります。例え「生活改善方式」ではない一般的な葬儀であっても、香典返しは絶対的な決まりではありません。
それでもこの場合は別地域の方へのみ、一般的な葬儀の慣習に則った香典返しを送るのが無難かもしれません。
事情があって香典返しを送れないなら、お礼状にて「地域の慣習の説明と、香典返しをしない理由」をお伝えすれば理解していただけるかもしれません。
葬儀の慣習の違いを元とするトラブルは多く発生しています。「生活改善方式」の葬儀かどうかに限らず、葬儀の慣習はその地域の特色が色濃くあり、それぞれ違います。自分の住む地域の常識が、隣の地域の非常識なんてこともあります。冠婚葬祭に関しては、正解も間違いもありません。冠婚葬祭で起こるトラブルはほとんどが無用です。香典や香典返しに関しては、特に慎重に考え、無用なトラブルを避けましょう。
生活改善方式の葬儀に参列することになったら
「生活改善方式」にはじめて参列する場合は、まず自治体のホームページから「生活改善方式の申し合わせ」事項を確認しましょう。それだけでは不安な方は、地域の葬儀業者に聞いてみましょう。実際に足を運ばなくても、電話対応している店舗もあります。気軽に相談してみましょう。